さて・・・ここで舞台を切り替える事をまずは詫びなければならない。

舞台は第三の戦場・・・トルコ、イスタンブールに移る。

二十六『イスタンブール防衛戦』

シオン及び、志貴の決断してからの行動は早かった。

速やかに準備を整え、志貴、『七夫人』、レンは再び朱鷺恵に『七星館』の留守を任せてイスタンブールに急行する。

既にリィゾ、プライミッツは先発してイスタンブールに向かい、フィナはアルトルージュの厳命で『千年城』で休息を取らせている。

「志貴君良く来てくれました」

「はい、それで姉さん現状は?」

イスタンブールの防衛軍の司令部に直行した志貴はそのままエレイシアと合流、現状の確認に入る。

「まず『六王権』軍ですが、既にイスタンブールから東方百キロの都市チョルルに集結後進発、見た事もない輸送兵器に死者を乗せてこちらに猛進しています」

「それはお父様との連絡でも聞きました。多少の荒地でも容易く走破できる性能のようです」

そこに予想外の人物の声が会議に加わる。

「それにロンドンでもそれ使われているわよ」

「!!先生!」

それは志貴の要請を受けてロンドンに向ったはずの青子だった。

「ロンドンでも使われたと言うと?」

「私は実際に見た訳じゃないんだけどドドーヴァー海峡をその輸送兵器で一気に横断したって話しよ。他にも巨大ゴーレムもいた話も聞いているから間違いなくヴァン・フェムお手製のゴーレムでしょうね」

「それよりも・・・先生どうされたんですか?ロンドンはもう大丈夫なんですか?」

「いや、行ったんだけど、ロード・エルメロイU世に頼まれたのよ。『ここよりもイスタンブールの防衛に加わってくれ』って」

「・・・もしかして、体良く追い出されたんじゃないですかそれ?」

「可能性はあるけど、向こうもフリーランスを雇い入れて戦力を増強させているから私がいなくても大丈夫だろうと踏んだんじゃない?フリーランスも私がいると、びびるだろうし」

「それは否定出来ませんけど」

「少しは否定しなさいよ志貴」

そんな漫才じみた会話の後会議を再開させる。

「代行者、その輸送兵器の速度は判明していますか?」

「はい、平均で時速四十から五十キロ。進軍を開始したのが三十分前、遅くてもあと一時間半での到着が予想されています。現在連合軍空軍が空襲を行っていますが正直、効果は期待出来ません『六王権』軍空軍もまた迎撃に出ていますので」

「姉さん・・・それで作戦は決まっているのですか?」

「はい、イスタンブール東側郊外に防衛陣を構築した上で迎え撃つ作戦が決まっています。それで持ちこたえられなければイスタンブール東側を放棄してボスポラス海峡を防壁とした上での二段構えの防衛陣を組み込みます。」

「無理よ。相手は短距離とはいえ水上航行も出来るのよ。迎撃を加える前に防衛陣に雪崩れ込まれるわよ。むしろ最初からイスタンブールに敢えて敵を雪崩れ込ませて市街戦に持ち込ませる手もあるわよ」

確かに市街戦となれば建造物等が遮蔽となり、死徒クラスならばまだしも死者とならば人間の軍隊でも対等に渡り合えるだろう。

だがそれにエレイシアは首を横に振る。

「それが一番有効だと思うのですが・・・実は出来ない理由があるんです」

「どう言う事ですか?」

「実はイスラム教過激派に不穏な空気が流れ出しているんです」

発端はイスタンブールを魔道要塞化する為、穏健派と協定を結んだ事にあった。

元々トルコは政教分離が原則であるが国教はイスラム教だ。

更に歴史を遡れば、イスタンブールはかつて、イスラム教の大国であったオスマン帝国の首都でもあった場所。

そこに異教徒を迎え入れる事に加え、イスタンブールを異教徒の手により造り替えようとしている様を彼らは屈辱と怒りに震えて見ていた。

穏健派は過激派との話し合いで『今は異教徒よりも『六王権』軍の方が何倍もの脅威。奴らに対抗するのが急務』と何度も説得するが過激派は中々納得する事はなかった。

そんな中、過激派の一部が考えてはいけない事を考えてしまった。

『何故、奴らと手を組まなければならないのか?』

『あの『六王権』軍は我々ではなく異教徒を殺してくれる。それはつまり我々からしてみれば敵の敵、つまりは遠まわしだが味方』

『それならばむしろ『六王権』軍と手を組み、奴ら異教徒を攻め滅ぼした方が良いのではないか??』

そんな扇動が過激派に急速に広まり、中東各国でイスラム過激派組織が蠢動を始めつつある。

「その為に本来共同でイスタンブール防衛を担う筈だったイスラム穏健派の戦力が過激派戦力の暴発を抑制する為に、中東各国に帰還、現状動く事が出来ないんです」

エレイシアの説明に一同嘆息したり頭を掻き毟る。

「まだ判らないのかよ・・・『六王権』は宗教人種関係なく人類を絶滅させようとしているってのに・・・」

「ただこれは仕方ないのかもしれません。何しろ現状『六王権』軍による被害は主にヨーロッパ、そしてアメリカです。彼らイスラム教圏への被害はむしろ微々たる物。そこに彼らが錯覚を覚えたとしても無理はありません」

「・・・考えちゃいけない事ですがいっそ『六王権』軍を中東に通したくなってきましたよ・・・」

「気持ちはわかりますが志貴それをしたら・・・」

「判っている。地政学的にもイスタンブールが防衛ぎりぎりのラインだって事位」

イスタンブールがヨーロッパと中東、中央アジアを結ぶ交通の要衝だと言う事は前にも書いたと思う。

イスタンブールが未だこちら側で押さえているからこそ『六王権』軍の侵攻を最小限に押さえ込めているが、イスタンブールが落とされれば事態は大きく変わる。

ロシア方面に加えて中東をも『六王権』軍の脅威は奔流の様に溢れだし、中東全域・・・いや、ユーラシア大陸は大パニックに陥るだろう。

個人的な報復で起こす危機としては余りにも大き過ぎた。

「もしもイスタンブールを落とされる事になればユーラシア大陸の殆どを『六王権』軍に差し出す結果にもなりかねません。イスタンブールの次に防衛ラインとして有力とすれば地政学関連と時間で考えれば朝鮮半島もしくは日本列島位なのですから」

「それだけではありません。そうなれば大西洋全域はおろかインド洋、そして太平洋も『六王権』軍海軍に蹂躙される結果になるでしょう」

「それ以前に地中海の『六王権』軍海軍が地中海から黒海に進出も出来る。そうなれば北のロシア方面は陸と海の二方面から攻勢を受ける形になる・・・」

それがどれだけの深刻な事態を招くかなど今更の話しである。

そのような事になるなどイスラム過激派は予想も出来ないのだろうか?

いや、予想できている者もいるだろうが、それも少数派。

圧倒的大多数は単純な欧米憎しだけで『六王権』軍に加担し自分の首を絞めようとしている。

「・・・不利なのはこの際覚悟しましょう。俺達も最前線に出ます。それで先生、先生の攻撃で件の輸送兵器、なぎ払う事は出来ないのですか?」

「吹き飛ばす事位は雑作もない事だけどその輸送兵器十や二十できく数じゃないんでしょ」

「ええ、現状五十近くが確認されています」

「そうなると百近くはあるものと考えた方が良いか・・・先生、遠慮はいりません。可能な限り叩き壊しまくって下さい。取りこぼした分や、乗っているであろう死者や死徒は俺達でどうにかします」

「オッケー」

「翡翠、琥珀は先生の護衛に回って。先生が輸送兵器の破壊を行っている最中に襲撃されたら事だから。シオンは後方で戦況の推移の確認、さつき、秋葉、レンはシオンの護衛と後詰を」

「「うん志貴ちゃん」」

「はい」

「うん」

「わかりました」

「・・・」

「俺と、アルクェイド、アルトルージュ、リィゾさん、プライミッツは最前線にでる。姉さんの方は」

「私とメレムを中心とする埋葬機関と代行者の選抜メンバーを出します。後方には連合軍の砲撃援護が加わる予定です」

「判りました。最後に敵の司令官は判明してますか?」

「・・・偵察部隊の命がけの調査の結果わかっています。十八位エンハウンスと十位ネロ・カオスです」









一方、『六王権』軍イスタンブール攻略部隊は先発の強襲部隊を『マモン』に押し込み、彼らを先頭として、ただひたすらイスタンブールを目指し、猛進を続けていた。

「・・・片刃、主力を先発させた方が良いのではないのか?何故、先陣強襲部隊に下級死者を?」

「けっ、これだから力だけがある奴は困るんだよ。まずは機動力のある奴で突撃をかまして奴らの防衛陣に綻びを入れた上で主力を叩きつけるのが有効だろうが。主力先にぶつけて全滅なんざ笑い話にもなりゃしねえ」

ネロ・カオスの疑問に面倒そうに答えを返すエンハウンス。

おそらくイスタンブールは堅固な防衛陣を築き自分達に対する迎撃の構えを取っている筈。

そんな堅牢な陣を抜くには迂回し陣の側面や後方を突くか波状攻撃の正攻法で打ち砕くしかない。

だが、迂回しようにも目的地のイスタンブールは陸路ならば黒海を大きく回らなくてはならない。

そこは未だユーラシア侵攻部隊とロシア軍の激闘が続いている箇所、戦闘に巻き込まれれば被害はまず避けられない。

かといって海路を取ろうにも黒海の入り口であるエーゲ海は半分は人類側の勢力圏である為おいそれと侵攻は出来ない。

海軍もエーゲ海の制海権を握ろうと夜間攻撃を仕掛けてはいるが、イスラエル軍を中心とした連合軍との戦いは未だに一進一退。

直ぐに海軍もたどり着ける状況ではない。

そうなれば後はある程度の犠牲は覚悟の上での正攻法しかない。

第十八位エンハウンスの戦術眼、実は二十七祖の中ではむしろ上位に入る。

彼の上は『六王権』と『影』、『六師』位であるから。順位で見れば低いが、それ以外の祖となると皆自らの力を過信している傾向が見られ、戦略や戦術を軽視していた為論外と言わざる負えない。

二十七祖として特異能力がない分、エンハウンスは知略や謀略を使わざる負えない一面があり、そして二十七祖を殺す為の実戦を積み重ねた事により自然と鍛え上げられていった。

だが、それが評価される事のなかった、今までは脆弱と他の祖より嘲笑の種とされてきたが、『六王権』配下に組み込まれてからはその素質に『六王権』が注目。

彼の能力は皮肉な形で脚光を浴びる事になった訳である。

「くそったれ・・・」

何かに毒づきながら前方を見る。

とそれと同時に先鋒の『マモン』部隊が突然爆発、炎上を始める。

いや、爆発は随所で立て続けに巻き起こる。

「ちっ、来やがったか。『マモン』部隊はさっさと散会しろ!!このままじゃいい的だ!!主力部隊!!突撃!!敵の先鋒をぶっ潰せ!!」

エンハウンスの号令を受けて残存の『マモン』はすぐさま距離を取りながら大きく散会していく。

そしてその隙間を縫う様に後方の主力部隊が前進を開始する。

「あらら、敵も少しは考えているみたいね。アトラシア、これからどうする?」

『一つずつ確実に破壊して回って下さい。敵の主力は志貴達に任せます』

「オッケーじゃあ行くわよ」

シオンと無線通信をかわした青子はすぐさま『マモン』破壊を再開する。

最初ほど大量ではないが魔力弾の一発は確実に『マモン』を破壊していく。

「何やってやがる!!『マモン』部隊は後退しろ!!全滅するぞ!!」

エンハウンスの怒号を受けて『マモン』は次々と後退、やがて青子の魔力弾の射程外に退避する。

「・・・どれだけやられた」

報告を聞くや歯軋りを止める事無く、拳を打ち付ける。

『マモン』百の内、青子の攻撃で十五失われた。

損害率十五パーセント、低いとは言えないが高い訳でもない。

だが、死者も同時に四万五千を失ったと思えば見過ごせる損害ではない。

それも敵の防衛陣に突撃する前にやられたとあっては戦力を無駄に喪失したも同然である。

戦争における鉄則、それは最小の被害で最大の戦果を挙げる事にある。

いや身も蓋もない言い方をすれば、効率よく、自軍の兵士を殺していくかにある。

残酷だろうがそれが戦争と言うものの真実である事も事実なのだ。

そこでの兵は人ではない。

ただの駒となる。

いや駒としてみなければ司令官としてやっていく事は出来ない。

戦場では過剰な情けは結果としてより多くの味方を殺す結果となるのだから。

「主力も同様に散会してまとめて吹っ飛ばされねえ様にしとけ!」

エンハウンスの号令に主力部隊もまた散らばり、密集を避けるが、一部でその命令に逆らう動きもあった。

元々、『六王権』軍の中核は十七位オーテンロッゼの死徒死者が担っている。

それは各軍にも振り分けられて配備されている。

元々、死徒の王の眷属となった事で選民意識もあったが、更には片刃と侮られ、嘲笑の的となっている者の指示など無視する傾向があった。

「・・・白翼公の死徒達か、貴様の命を無視しているな」

「馬鹿が!そんなに死にてえのか!」

そう言うや突如現れた巨大な犬に命令を無視して密集した上に突出していた死徒達がまとめて踏み潰された。

「自業自得だ!!『ミス・ブルー』がいる以上は王冠も出張るに決まっているだろうが!命令を徹底させろ!踏み潰されたくなけりゃとっとと散会しろ!!」

「魔法使いに王冠となれば・・・『真祖の姫君』もいるか」

「後は『死徒の姫君』に『黒騎士』、後は『真なる死神』も出ているな。そうなりゃ前線の連中じゃ力不足だ」

エンハウンスの言葉に釣られるように前線の随所で主力部隊が敵の猛攻を受けているとの報告があがる。

「ちっ、俺らが出なけりゃ全滅だな。主力には守りに集中しとけと伝えろ、俺らが出るまでは」

「では行くか片刃」









一方、『マモン』部隊が後退し、代わりに後方の主力部隊が現れたのを志貴達は若干の落胆を交えて見ていた。

「それなりの戦術眼を持っている奴がいるか・・・そうもこっちの思惑通り行くとは思わなかったけど」

『おそらくエンハウンスでしょう。あれは死徒しては強力ですが二十七祖特有の特異能力は持ち合わせていませんし、二十七祖との戦いを経て実戦の戦術眼を鍛えてきましたから』

「なるほど・・・じゃあこっちも動くか。皆、敵の主力部隊が前に出てきた。先生は後方での援護をお願いします、隙あれば前線に出ても構いません。琥珀、翡翠は引き続き先生の護衛に当たって。シオン達も敵の動きを注視。後は徹底的に叩いてくれ」

無線では妨害にあう為に有線での無線で通信を終える。

と同時にメレムの招聘した右足の悪魔が死者や死徒を踏み潰しながら歩き出した。

『早速始めていますねメレム』

「じゃ俺も行くか。姉さん、お気をつけて」

『ええ志貴君も気をつけて下さいね』

同時に数箇所で人の形をした猛威が一斉に牙をむき始めた。









「こんな所かな」

死者も死徒も区別なく周囲一帯をバラバラ死体の山に変えてしまった志貴は一先ず一息つく。

傲慢も油断もなく周囲を見渡す。

戦闘力の一点ではここにいる面子の中でも屈指であるが生命力と言う点では志貴はただの人間。

真祖のアルクェイド、二十七祖のアルトルージュ、リィゾ、プライミッツと比べれば圧倒的に弱い。

銃弾一発でもいかに圧倒的な戦闘力を誇ろうともあっけなく死ぬ。

子供の頃から積み重ねに重ねてきた実戦経験の内容ゆえに志貴は油断しなかった、いや出来なかった。

その時視界の片隅に暗い何かが志貴目掛けて襲撃を仕掛ける。

すぐさまかわしつつも線を通して真っ二つに切り裂く。

「これは・・・」

それはカラスだった。

だが、一目見た瞬間それをおぞましい何かだと志貴は直感していた。

何しろ切り裂いた箇所からは血は全く出てこない。

それはどこまでもヘドロのようにどす黒かったのだから。

と、そのカラスの残骸が突如形を崩し、ヘドロのようになるや、

「・・・ほう、さすがは『真なる死神』この程度の奇襲など通用せぬか」

と、声の方向に身体を向けて構える。

そこにはコートを着た長身の男が立っていた。

見れば先程のヘドロは男の身体に吸い込まれる様に消えていった。

その男の身体・・・すなわちコートの中身は底が見えぬ闇に満ち溢れ、直視するのも耐えがたいほどの死点が渦を成している。

長年死者や死徒の死線や死点を見てきたが、ここまでおぞましいのは初めてだった。

「お前は・・・」

初対面だったが、おおよその推測は経つ。

これだけの威圧、桁違いの異端、そして現状ここにいる二十七祖は二人。

その内の一人とは既に先日イタリアで対面している。

ならばこいつは消去法で

「第十位・・・混沌ネロ・カオス」

「ほう、高名な『真なる死神』が我が名を知っているか・・・それは恐悦」

言葉とは裏腹にネロ・カオスの表情にはどこまでも暗き愉悦に満ちている。

「ならば我も敬意を持って貴様と相対しよう。我が混沌達の餌となる貴様と」

そう宣言すると同時にネロ・カオスの身体から次々とヘドロのような闇が零れ落ち、次々と虎や鰐、カラスと形を変えていく。

「な、何だこりゃ・・・使い魔?いや、それにしては異様過ぎる・・・一体」

「さあ行け」

それと同時に獣たちが一斉に志貴に襲い掛かる。

「考え事は後回しだ」

目の前の異端に対処しなければ待っているのは自分の死だと言う事を誰よりも判っている志貴は意識を戦闘に切り替え、獣達と相対する。

志貴と『混沌』ネロ・カオスの戦闘が始まりを告げた。









そして、十八位エンハウンスはと言えば代行者のメンバーと遭遇し憎悪を漲らせ、殺戮の限りを尽くしていた。

「おらああ!」

近接戦では破滅の宝具、ダインスレフで滅多斬りにし、遠距離ならば魔弾が全弾必中で息の根を止めていく。

「ひ、ひいいいい!」

「くそっ!逃げろ!こいつは俺らのかなう相手じゃねえ!!」

半分の味方を失い逃走を図る代行者をエンハウンスが見逃す道理も理由もない。

ましてや情けをかける理由もある筈もない。

魔弾が撃ち出され無慈悲に逃走する代行者を始末する筈だった。

「おおおおお!!」

一陣の剣風が魔弾をまとめて叩き潰す。

「・・・これ以上の狼藉は許さぬぞ片刃」

「また手前か黒騎士」

巌のごとき声と威厳を称え敵に立ち塞がるリィゾとそれをイタリアの時と変わらぬ怒りと憎しみを持ってにらみつけるエンハウンス。

「けっ、また貴様一人で相手するのかよ。前は『真なる死神』の助力でようやく生き延びておめおめと尻尾巻いて逃げたした貴様が」

「・・・あの時は貴様に対する油断と侮りがあったのもまた事実。だが、もはや二度の不覚は取らぬ。ここで決着をつけてやろう。片刃」

「いいだろう。ならば俺は死なねえ貴様を完膚なきまでにぶち殺して、『真なる死神』の息の根を止めた後、『死徒の姫君』に貴様と『真なる死神』の首突きつけてやる!」

「姫様を悲しませる所業!断じて許さぬ!!」

憎悪が最初から最大級に膨れ上がるエンハウンスと、彼の最後に言い放った挑発を聞き怒りと闘気を噴出すリィゾ。

エンハウンスとリィゾ、『イタリア撤退戦』のリターンマッチが今始まろうとしていた。

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